いつかあなたに逢いたい

2015年12月に6年付き合っていた最愛の彼を喪いました。
正直どう生きていったら良いのかわからないまま・・・今を過ごしています。

入院 5日目

2015年12月2日。

この日は仕事が長引いてしまい、ちょっと遅くに病院に入った。

ただ看護師さんが配慮してくれて、面会時間より少し長く病院にいることができた。

この日は1時間近く、病院にいた。


病室に入ると昨日より覚醒状態が悪かった。

呼びかけても、手を握っても何も反応がなかった。

俗に『痛覚刺激』と呼ばれるものもやってみた。

手の爪の根元を、自分の爪でギューと押すのだ。常人だったら飛び上がるくらいに痛い。

・・・でも、何の反応もなかった。

看護師が耳元で大声で呼びかけてもダメだった。

試しにわき腹をくすぐりながら、「○○~起きろ~うりゃー!」とやってみた。

元気な時彼はくすぐられるのが苦手で「やめろーww」なんて言いながら逃げてたっけ。

ただこの時はわずかに眼が開いただけだった。こちらを見たが、焦点が全く合っていなかった。

多分、誰かがいることはわかっていても、私だとはわかっていないんだろう。


もう右手は全く動いていなかった。左手も時々は動かすが、握っても握り返してはこなかった。

昨日より状態が悪化しているのは、誰が見ても明らかだった。

『薬で落ち着かせているって言ってたから、きっとそのせいだ』

そう無理やり思い込もうとした。

今が一番悪い時期だ。これから良くなっていくんだって。


最後に「○○、また来るからね」というと微かに2回頷いた。

ただ声に反応していただけかもしれないが。

その後「●×△□・・・・」とうわ言を言っていたが、何を言ったか聞き取れなかった。


私はこの日、強く”彼の最期”を意識した。

必死にその考えを追い払おうとしたけれど、どんどん悪い想像だけが広がっていった。

その想像は・・・現実となってしまうのだけれど。

入院 4日目

2015年12月1日。

この日も仕事が終わってから病院へ行った。

面会時間は40分ほど。

すごく短く感じた40分だったけれど。


病室に着くとやはり彼は眠っていた。

ただ、「ナナドゴブだよ。わかる?」と訊くと頷いてくれた。

看護師さんに訊くと食事はほとんど入っていないとのこと。

また、脳が腫れてきているとのことだった。

昨晩興奮してしまったため、薬で落ち着かせているとも言われた。


時々眼を開けてこちらをみるがすぐに眼を閉じてしまう。

左腕をしきりに動かしており、左手を握ると握り返してきた。

「えーっと次は・・・」「えーっと次は・・・」としきりに呟いていた。

仕事をしている夢でもみているのか、それとも学生時代に実験していた時の夢でもみているのか・・・・

最後に「愛してるよ」「また来るからね」と言うと頷いてくれた。


この時、私は気づいてしまった。

昨日まで動いていた彼の右腕がほとんど動いていないことに。

合併症が出てきてしまったのだろう。脳も腫れてきているというから。

でも認めたくなかった。単なる偶然だと思いたかった。

彼は良くなると思い込もうとした。

それを打ち消すかのように、不安な気持ちだけ広がっていったのを覚えている。

入院 3日目

2015年11月30日。

この日は月曜日なので仕事。本当は休みたかったけれど。

そんなことも言ってられないので仕事に向かう。

ICUなので長時間の付き添いはどちらにしろできない。


先輩に事情を話し、定時であがらせてもらえた。

かなり驚いていたが「いいよ、早く行ってきなさい。」と言ってもらえた。

本当に私は周りの人に恵まれている。


ICUの面会時間は19時までだから、そんなに時間に余裕はない。

この日も面会できたのは40分ほど。

うつらうつらしており、時々こちらを見るがすぐに眼を閉じてしまった。

腕や肘は点滴などを自己抜去しないように厳重に拘束されていた。

1日目はタオルで縛っていたが、引き千切ってしまったらしい。

・・・・流石に腕の力だけはすごい・・。

食事は少しずつ摂っているようだが、嫌いだと言って煮物などを吐き出してしまったらしい。そんなに好き嫌いがない人なのにな。不思議だ。


「ちゃんと食べなきゃダメだよ」と言うと彼は頷いた。

「大丈夫?仕事で無理してたんじゃない?」と訊くと彼はまた頷いた。

こちらの言うことはわかっていたように思うが、言葉で返す余裕はなかったんだろう。

ただ、時々「疲れた、疲れた」と大声で言うことがあった。

私は黙って手を握ることしかできなかった。


脳血管疾患はそれが起こった直後も怖いが、数日後に出てくる合併症もかなり怖い。

その合併症によって症状が悪化してしまうこともあるからだ。

どうか起こらないでくれ、と祈ってはいたが、彼の運ばれた直後の症状から何らかの合併症は起こってしまうと予測ができた。


そしてその嫌な予感は、最悪の形で的中してしまうことになる。