ハンドクリーム
彼は常に車椅子だったので、実質手や腕だけで移動していたようなものだった。
そのせいか肩周りや腕の筋肉は凄かった・・・
ただ車椅子を自分で操作する時に、ハンドリム(車椅子のタイヤについており、これを掴んでこぐことで、スピードを調整したり向きを変えたりする)を使っているので、手がいつも擦れて手のひらの皮がガサガサだった。
特に今の季節は乾燥することもあり、ひどい時は皮が剥けてしまっている時もあった。
「ちょっと!手のひらひどいじゃん!!大丈夫なの?」と訊いても、「大丈夫だよ~」なんて言って笑ってるだけ。
見かねて私はハンドクリームを彼にあげた。私が使っている物と同じもの。
彼は「わーい。ナナドゴブとお揃いだ~♪」なんて喜んでた。
ポイントはそこじゃない気がするけど・・・。
でも手をつないだ時、お互いの手から同じ香りがするのはなんだか嬉しかった。
頭を撫でてくれた時、その香りがすると使ってくれているんだ、喜んでくれたんだって思えた。
ハンドクリームを使って少し良くなったけれど、彼の手はそれでもガサガサだった。
でも途中からその感触=彼の手って感じがして気にならなくなった。
寧ろ安心した。
彼がいなくなって彼のアパートへ行った時、そのハンドクリームの容器をみつけた。
綺麗になくなっていた。大分前にあげたものだから、容器だけ取っておいたんだろう。
大事に取っておいてくれていたんだね。
なんかその容器を見た途端、無性に悲しくなった。
それをあげて喜んでいた彼の顔、彼の手の感触、そして最期に彼の手に触れた時の冷たさ、そんなものを一気に思い出したからだ。
何でいなくなっちゃたんだよ~。
これからもハンドクリームを塗ってあげたかったのに。
ずっと手を繋いでいたかったのに。
彼の手が恋しい・・