もう使わないメールフォルダ
彼は最後までガラパゴス携帯を使っていた。
スマホが一般的になってからもずっと。
綺麗なレモン色のガラケー。
「スマホにしないの?」と訊いても「タブレットもあるし、これでいいや。使いやすいし」と替える様子はなかった。
だから彼とのやりとりはメールがほとんどだった。
家族や友人とのやりとりはだんだんLINEになっていったけれど、彼はEメールのまま。
彼とLINEでやりとりするのは、彼が携帯を職場に忘れてきた時とかだけだった。
スマホをみてEメールが来ていると、彼かな?と思ってワクワクして開いてみる。
そこでただの宣伝メールだと少しがっかりした。
途中からは彼のメールだけ別のフォルダに入れるようにした。
メールボックスを開いた時、そのフォルダに数字のマークが出ていたら、彼からメールがきた合図。
彼がいなくなった直後はEメールが来る度に、"もしかしたら彼かも!"と少し期待してメールボックスを開いてみたけれど、彼のフォルダにマークがついていることなんてなかった。
大昔登録したお店とかの宣伝メールが殆ど。
落胆した。
もう二度とそのフォルダにメールが来ることなんてない。
もうメールは増えない。
そのことをきちんと理解するのに大分時間がかかった気がする。
今はもうメールボックスはほとんど開かない。
数日に一度、来たメールをざっと内容を確認して消している。
それで十分になったから。
ほとんどが不要なメール。
私は彼からのメールが欲しいのに。
でも彼のために作ったフォルダは今も消せない。消せるわけがない。
姿がみえなくても、声がきこえなくても、せめてメールはやりとりできたらいいのにね。