いつかあなたに逢いたい

2015年12月に6年付き合っていた最愛の彼を喪いました。
正直どう生きていったら良いのかわからないまま・・・今を過ごしています。

病状説明を受けた後

先生からの説明が終わり、私は彼の所に戻った。

彼の左腕はもう、動いていなかった。

私は彼の動いていない左手を握った。

彼と私が手を繋ぐ時は、彼の左手と私の右手を繋ぐことが多かったからだ。

「どうして・・・○○、どうして・・・」

「結婚しようって言ってくれたじゃない」

「一体、どこでそんなに頭を強く打ったの?」

「12月は今まで忙しかった分、ゆっくりしようねって言ったじゃない・・・」

そんなことを言いながら、泣いた。


かなり長い時間ICUにいるが、私はどうしても離れる気にはなれなかった。


しばらくすると私に電話をくれた、ICUの師長さんが来てくださった。

「電話をくださって、ありがとうございました。」と私が言うと、

「それは全然いいのよ。ただ、もしもの時のことも話し合っていたなんて、本当に良い絆で結ばれていた関係だったのね。これからがつらいと思うけれど、気をしっかりね。」と声をかけてくださった。

私は泣きながら、頷くことしかできなかった。


それから更にしばらくすると、彼の一番の友人が面会に来られた。

彼のご両親が連絡したのだろう。

彼から話は聞いたことはあったが、実際にお会いするのは初めてだった。

あちらも私のことは彼から聞いていたとのこと。

ぽつぽつと会話を交わした。

一番印象に残っているのが「何だか、こうしていると寝ているみたいですね」との言葉。


30分ほどで帰っていかれた。ただ、私はどうしても離れる気になれなかった。

延命治療について

「お互い無理な延命治療はしないでおこう」

彼と前から約束していたこと。


彼は言っていた。

「ナナドゴブー俺は無理な延命は望まないからね。管だらけになって死ぬのは嫌だから。自然に死なせてね。将来もし何かあったらそうしてね。」と。

私は「わかったよー。でも先にいなくならないでよ。それに私の時もそうしてね。」と答えていた。

でもそんなことはまだまだ先だと思っていた。

結婚して、一緒にいろんなことをして、定年退職して、一緒に老後を過ごしてからのことだと。

まさか結婚を約束した1週間後に、全てのライフステージをぶっ飛ばして看取りをするなんて思っていなかった。

そして、愛する人の命の期限を決めることを20代で経験するなんて思わなかった。

つらかった。苦しかった。


実は主治医の先生から病状説明を受けるまでは、人工呼吸器をつけることもほんの少しだけ考えていた。まだ若いし、何とか回復するのではないかと。

でも彼の脳の画像を見た瞬間、そんな考えは粉々に打ち砕かれてしまった。

私が職場で今まで見てきたどの患者よりも脳の損傷が激しかった。

人工呼吸器をつけたって何の解決にもならない。ただ最期までの時間が延びるだけだ。

脳死状態や植物状態になる可能性が極めて高い。例え奇跡的に意識が回復したとしても、凄まじい障害が残ることがわかってしまった。

もともと車椅子の彼に更に障害を負わすのか。

私がそんなことをしていいのか。

絶対にダメだ。

そんな考えが一瞬で頭を駆け巡った。


人工呼吸器をつけなかったことは今も後悔はしていない。

ただ、これが正解だったかどうかは彼に訊かないとわからない。

病状説明

主治医から病状説明を聞くことができるのは普通、家族のみだ。

私はかなり特殊だっただろう。彼女とはいえ赤の他人だ。

後から聞いたところによれば、主治医の先生が私が毎日見舞いに来ているのを看護師さんから聞いて、彼女さんにも病状説明をしたいと申し出てくれたそうだ。

彼のご家族もぜひお願いしますと答えたとのこと。

そして延命治療を行うかどうかも訊いてほしいとご家族はおっしゃったそうだ。

このことは今でも本当に言葉では言い表せないくらい、感謝している。


主治医の先生はカルテや彼の脳のCT、MRI画像を見せながら丁寧に説明をしてくださった。

まず彼の病名は外傷性のくも膜下出血、脳出血、脳挫傷。

1つでも命に関わるのに、そんな病名が3つもつけられていた。クラクラした。


そして先生は説明を続けた。

・出血自体は吸収されているが、合併症として脳浮腫、脳血管攣縮が起こっていること

・その合併症の程度がとてもひどいこと

・脳血管攣縮のせいで脳梗塞と同じような状態になっており、仮に意識が回復したとしても右半身麻痺、全失語、情緒障害が残ること

・一番問題なのが脳の腫れで脳溝(脳のシワ)が見えないほど腫れていること

・脳の腫れがひどいせいで呼吸や心臓の機能を司っている脳幹を圧迫し始めているということ

・正直いつ呼吸が止まってもおかしくないこと


嫌というほど理解できた。もうどうあがいたって元の生活には戻れないということ。


「どうしますか?」と主治医の先生に訊かれた。

彼の自発呼吸や心臓の鼓動が止まりかけた時に、人工呼吸器をつけるかどうか、昇圧剤や強心剤を使うかどうかということだ。

私は涙声になりながらもなんとか答えた。

「いいえ、望みません。」


主治医の先生や付き添いの看護師さんは一瞬驚いたように見えた。

私が望まないと即答したからだろう。


「彼と約束していたんです。無理な延命はしないと」と私が言うと、先生は「わかりました。ただ、脳の腫れを抑える薬などは最後まで投与させていただきます。」と言われた。

「先生、お願いします。そしてお時間をとっていただいて本当にありがとうございました。」そう言って部屋を出た。