本当にいない?
本当に彼はいないんだろうか?
時々、本気でそう思ってしまうことがある。
彼が病院に運び込まれて対面した日のこと。
主治医の先生から病状説明を受けた時間。
彼の心臓が鼓動を止めた瞬間。
彼の最期の顔。そして心臓が動いていない身体の独特の冷たさ。
彼のお通夜。葬式。そしてお骨を拾ったこと。
全部私の記憶にある。
私の人生の中であれより異常な数日間はなかった。
でもそれ以上に鮮明に蘇るのが彼との6年間の想い出。
彼の笑顔、ちょっと困った顔、照れた顔。
「ナナドゴブ」って呼ぶ優しい声。「愛してる」って言ってくれた声。
手の感触。抱きしめられた時のぬくもり。
彼のちょっとしたクセ、仕草。
もちろん今でも覚えてる。
あの異常な数日間より、こちらの方が簡単に思い出せる。
だからこそ、錯覚してしまう。
あの異常な数日間は夢で、本当は彼は普通に生きてるんじゃないか?
6年間でいろいろな姿を見せてくれた彼が、あの数日間で全部消えるわけがない。
もう2度と会えないなんてことはない。
いつかあの笑顔も見れるし、声も聞けるんじゃないか。
そんなことを思ってアパートに帰ると彼の遺品がある。
それを見ると、「あぁ、やっぱりいないんだ。」と一気に現実に引き戻される。
私のアパートに置いてある遺品は、本来彼のアパートにあったものだから。
多分その遺品がなかったら、私はフラッと彼のアパートだった所へ行ってしまうだろう。
彼がいないことをきちんと認識して、受け容れることができる日は来るんだろうか・・・心配だ。