彼がいなくなってからしばらくは、ふとした瞬間に彼との想い出が脳裏に浮かんだ。
エレベーターに乗った時は、彼と昔ガラス張りのエレベーターに乗ってはしゃいだ記憶がよみがえったし、彼の車で一緒にドライブした場所を通った時は、その時に話していた会話の内容を思い出したりした。
ひどいときは職場で書類に自分の名前を書いた瞬間、私の名前を呼ぶ彼の優しい声を思い出した。涙がこみ上げてくるのを悟られないように必死になった。
最近は理不尽なフラッシュバックもほとんどなくなり、仕事中に泣き出しそうになることはかなり減った。ほとんどないと言っていい。
一人になると彼との想い出が頭の中に駆け巡り、泣き叫ぶこともあるけれど、人前では折り合いをつけることができたと思っていた。
なのに、今日久しぶりにきてしまった。
それもいきなり。
仕事で病棟にあがり、そこにあったモニターのピッ、ピッという音を聞いた時、彼の最期の姿がかなり鮮明に浮かんだ。
彼の主治医が瞳孔の対光反射を確認し、彼の胸に聴診器を当てて心臓の鼓動がないのを確認している様子も思い出した。
心臓がバクバクと鳴り、涙が込み上げてきた。かなり苦しかった。
慌ててトイレに駆け込んで呼吸を落ち着かせた。
かなり時間がかかったけれど。
今まではモニターの音を聞いても全然平気だったのにな。不思議だ。
フラッシュバックはいつどこでどうくるかわからないんだね。
やっぱり理不尽だ。
心構えはしておかなきゃな。
どうか人前で強烈なフラッシュバックが起きませんように・・・