最期の時
私のアパートから病院までは15分ほど。
彼の実家から病院までは1時間ほどかかる。
そのため彼の所には、私の方が先に着いてしまった。
彼の傍に駆け寄る。
彼の顔、そして胸の辺りは真っ赤だった。そして触ってみると熱い。
なのに、手や足の先は冷たくなっていた。
そして彼の心臓はとてもはやく脈打っていた。胸の動きでわかるくらいにバクバク動いていた。まるで最後の力を振り絞っているようだった。
私は彼の左手を握った。
「○○、愛してるよ。」そう言いながらキスをした。
彼の唇に。頬に。額に。何度も何度も。
聞こえていたかどうかはわからない。でもこの時ほんの少しだけ、呼吸回数が上昇した。
偶然と言われればそれまでだけど。
そして彼の胸に肩に寄りかかってみた。いつもはそうしていると彼に抱きしめてもらえたけど、この時はもちろん何の反応もない。
もうこの腕に抱きしめてもらうこともない、そう考えると本当に悲しかった。
この時間が彼と二人きりで過ごした最後の時間だ。
午前3時20分頃。彼のご家族が到着した。
4人でベッドの周りを囲み、彼の身体をさすったり声をかけたりする。
”その時”はゆっくりと近づいていた。
まず最初に血中酸素濃度が下がっていった。そして血圧も測れなくなった。
そして私が到着した時、あんなに熱かった身体がどんどん冷たくなっていった。
呼吸回数もゆっくりとだが、確実に落ちていっている。
午前4時過ぎ。急に脈が落ち始めてきた。
脈は落ち始めるとはやい。みるみるうちに100を切り、70、60となっていく。
そしてついに30台になった。もう最期だ。
私はできる限りの声で叫んだ。
「○○っ.....大好きだよ!!」
そしてその数瞬間後、ピーッという機械音が鳴り響いた。
彼の心臓が鼓動を辞めた。
主治医の先生が来られ、瞳孔と呼吸、心臓の鼓動を確認する。
そして腕時計をみて「4時32分、ご臨終です」と告げた。
この時、彼はこの世の人ではなくなった。