対面
××病院に着いた。
ここでふと思った。ICUには通常、家族しか入れない。
私は婚約もしていないただの彼女。入ることができるのだろうか。
とりあえず、ICUの入り口に向かう。
「あの・・今日入院した○○さんと面会できますか?」
看護師が訝しそうに「どのようなご関係でしょうか?」と訊いてきた。
「○○さんとお付き合いしています。」と答えると、「少々お待ちください」と離れていく看護師。
どうしよう、入れなかったら・・・と思っていると、「お待たせしました、どうぞ。」と中へ案内された。良かった。
手を洗って、マスクをしてICUへ入る。
個室のような場所に彼はいた。
酸素マスクをして点滴につながれて苦しそうに眼を閉じている。
「あまり刺激を与えない方がいいですね。」と看護師に言われたので、傍に座って見守っているだけにした。
両手は点滴を自己抜去しないようにベッドに拘束されている。
しばらくすると、急に右手で酸素マスクを右手で振り払い「吐く!!」と叫んで眼を見開いた。
慌てて看護師に報告する。彼は看護師が差し出した袋に吐いた後、少し楽になったのかさっきよりも表情が和らいだ。
しかし、右手で酸素マスクを取った際に点滴の針がズレてしまい、看護師に再度入れ直してもらった。「痛い、痛い」と叫ぶ彼。
私は、”あぁ吐いているのか、けっこうマズいな”とか”点滴を入れられるとわかるほどの意識レベルはあるのか”なんて考えていた。
職業上、ある程度の知識はあるためどうしてもそんなことを考えてしまう。
私はその後も彼の傍に座っていることしかできなかった。
1時間ほど経った後、ICUをあとにした。