彼の最期を意識した瞬間
この日。
彼の病状は素人目から見ても急激に悪化していた。
合併症が本当に強く出てしまっていた。
数日前からは考えられないほど変わっていた。
あの時の彼の虚ろな目。
目は半分開いたのに、その目には喜怒哀楽どころか何の感情も映っていない。
本当にただ”目が開いている”だけの状態。
あの目は今でも忘れられない。
正直合併症が出るとは思っていたが、こんなに急激に進むとは思っていなかった。
なので正直かなり戸惑った。
脳浮腫、脳血管攣縮・・合併症を防ぐために薬剤を投与していたが、彼には効果がほとんどなかったそうだ。
これは後から聞いた話。
合併症がなかったり、薬が効いて最小限に抑えられたりする人もいるのに・・
どうして、何で彼は!!と今でも思う。
”何で、何で?””どうして彼が?”
あの日はそればかり考えていた。
そして”本当に彼がいなくなってしまうかもしれない”という感覚が全身を貫いた。
病院帰り、彼のアパートに立ち寄った。
一週間前、彼と私は確かにここで笑っていたはずなのに。
何で今、私は彼を喪う恐怖に怯えているんだろう。
本当に意味がわからなかった。
悪い夢なら醒めてほしかった。
当たり前だと思っていた、彼といるあの穏やかな時間。
切実に返してほしいと思った。
もう一度、彼とこの場で笑い合いたいって泣きそうになりながら祈っていた。
彼がいなくなるという現実を自覚している自分と、それを絶対に認めたくない自分。
両方が自分の中で葛藤していた日だった。
どうしたらいいのかわからなくなって、思考を放棄し現実逃避をした。
正直、この日の夜は何を考えて、どうやって過ごしたか覚えていない。