納得なんかできない
彼はもうこの世にいないともう、わかっている。
もう生きているうちは絶対に会えないということも。
でも、私は彼がいなくなったことに納得はしていない。
いや、納得している方なんて少ないと思うけれど。
彼はまだ29歳。平均寿命まで50年もある。
やりたいことだって、まだまだたくさんあったと思う。
事故で怪我をして自分の足で歩けなくなって、自分の夢を諦めなきゃいけなくなった。
でもリハビリを頑張って、2年以上かけて自分のことは自分でできるようになった。
更に就職。
彼は国の基準でいうと最重度身体障害者。全然そんな風には見えないけれど。
常に車椅子で過ごさなくてはいけない。
彼と私がいるのは田舎の県。
車椅子の人を雇ってくれる企業は少ない。
彼も就職して数年は非正規職員だった。
でも彼は「頑張って正社員になって、皆を安心させないと」と頑張って、一昨年ついに公務員になることができた。
そしてそれをきっかけに一人暮らしを始めて、自活できるようにもなった。
これまで何年も何年も血の滲む様な努力をしてきた彼。
これから幸せになろうとしていたのに、何でこんなに早くいなくならなくてはいけなかったのか。
努力は報われるんじゃないのか。
彼こそ報われるべき人だ。
どうして彼なのか。
ふざけるな。彼はいなくなっていい人じゃない。
・・・・。
今でも私は、彼を連れて行った"何か"を許せない。
憎悪という感情すら湧いてくる。
連れて行く時期を間違ったんじゃないかとすら思っている。
例え誰が「彼の寿命は29歳だった」と言ったとしても、私はそれには納得しないだろう。