彼の顔を見て、遺影を持って
前回の記事の続き。あの時のこと。
斎場から弔問客がいなくなり、棺の周りに彼のご家族と親族が集まった。
私もその中に入れていただく。
彼の棺の顔の部分が再び開けられた。
花を入れるために。
斎場の方が順番に花を配っていく。
私の番。
彼の顔の左側にそっと花を置いた。左側は私の定位置。
”ねぇ何で起きないの?何か反応してよ・・”
そんなことを思っていた。
彼は相変わらず目蓋を閉じたまま。
眠っているような・・とよく言うけれど、彼もそうだった。
表情だけ見れば、相変わらず寝ているように見えるだけ。
でも、生気は感じない。
彼はそこにはいない。
彼の姿形なのに、”彼”はいない。
上手く言えないけれど、そんな感じを受けた。
でもこの頃にはもう、涙も出なかった。
ただ、ひたすら彼の顔を覚えることに徹していた。
”もう、見られなくなる”
そんな思いだけはずっと頭の片隅にあった。
全員が花を入れ終わり、他に何か棺に入れるものがないか、斎場の人が確認した。
その後、棺を男性6人がかりで抱え霊柩車に運んだ。
火葬を・・するために。
その時お義姉さんに「ナナドゴブちゃんがこれを持って」と遺影を渡された。
流石にそれは・・と辞退しようとしたが、
「いいの。弟の葬儀だから・・弟が喜ぶことをしてあげたいの」と言われ、それ以上は何も言うことができず、彼の遺影を持った。
霊柩車にお義父さんと私が乗り込む。
彼が隣にいた。
霊柩車のクラクションが鳴らされ、発車する。
見送りの人たちが合掌しているのが見えた。
私はそれを・・ただぼんやりとみつめていた。
ドラマとかで観る光景。
それを自分が体験しているなんて、信じられなかった。
一線離れた場所からその風景を観ているような錯覚に、一瞬陥った。
紛れもない、現実なのだけれどね。