個室に移されて
待合室で待っている間、私は自分の両親に連絡を入れた。
彼はもういつ最期を迎えてもおかしくない、ということを伝えると両親は絶句していた。
ただ、何かあった時は連絡を入れてほしいとだけ言われた。
余計なことを訊かないでいてくれるのは本当にありがたかった。
多分、数日そっちに帰ることになると思う、と伝えるとわかった、とも言ってくれた。
処置が終わり、彼は個室に移された。
多分最期が近いからだろう。
私は傍に座って「○○・・」と声をかけ、身体をさすってあげることしかできなかった。
もちろん、反応はない。
看護師さんがきて、彼の状態をチェックする。
眼に光をあてて、対光反射を確認する。
光に反応して瞳が小さくなるかどうかみているのだ。
まずは右眼・・・彼の瞳は反応し小さくなった。
次に左眼・・・看護師さんが光をあてた瞬間、私は見てしまった。
左眼の瞳が右眼よりも拡がっていることに。
本当に最期が近いんだ、と実感してしまった。
彼のご家族もこの時到着された。
お父さん、お母さん、お姉さん。
私は慌てて礼をする。
「ナナドゴブさん、来てくれてありがとう」逆にお礼を言われてしまった。
延命治療はしないと選択しました、と伝えるとそうですか、と返事をされ、あとは全員で言葉少なく彼を見守る。
彼は挿管されたおかげで呼吸が一時、安定した。
ちなみにこの時の時刻は午後9時過ぎ。
彼のお父さんに「一度、戻りましょう。ナナドゴブさんも一度帰った方がいい。ずっとここにいるんでしょう。体力が持たないですよ。」と言われた。
本当はずっといたかったが、ご家族がそう言われるのでは仕方がない。
一度アパートに帰ることにした。
看護師さんから、「何かありましたらすぐにお呼びしますから」と言われたので、それを信じ、病院を出た。
最期に立ち会えないのは絶対嫌だったからだ。