言いたくなかった言葉
その後も私はずっと彼のそばにいた。
看護師さんの仕事の邪魔だったかもしれないが、どうしても離れられなかった。
彼の友人が帰ってしばらくした後、看護師さんが身体を拭きに来てくださった。
流石に邪魔になるので、少し離れる。
「終わりましたよ」という看護師さんの言葉に再び彼の所に戻る。
そして彼の顔を見た時・・・
今まで寝ているような顔しかしていなかったのに。
彼は下顎呼吸をしていた。
口を大きく開けてはーっはーっと懸命に酸素を取り入れようとしている。
呼吸をすることにも全エネルギーを注いでいる状態だ。
看護師さんも驚き「今、先生を呼んできますね。」と言い、その場を離れた。
私はそんな彼を見て思わず口走ってしまった。
一番言いたくなかった言葉を。
「もういいよっ......今まですごく頑張ったんだから、もう頑張らなくていい....!」
彼は10年近く前、転落事故で車椅子になった。
そこから頑張って頑張ってリハビリをして、人並みの生活を送れるようになった。
これから自分の幸せを掴もうとしていた時に、何でこんなことになってしまうのか。
どうして彼ばっかり・・どうしてどうして!!!!
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しばらくして先生が来られ、これから挿管すると言う。
これも延命治療のひとつといえばそうなのだが、呼吸をするのは楽になるとのこと。
それに彼の実家は病院から少し離れている。このままだと最期に間に合わないかもしれない。
処置が施されている間、私はICU前の待合室で待つことになった。