延命治療について
「お互い無理な延命治療はしないでおこう」
彼と前から約束していたこと。
彼は言っていた。
「ナナドゴブー俺は無理な延命は望まないからね。管だらけになって死ぬのは嫌だから。自然に死なせてね。将来もし何かあったらそうしてね。」と。
私は「わかったよー。でも先にいなくならないでよ。それに私の時もそうしてね。」と答えていた。
でもそんなことはまだまだ先だと思っていた。
結婚して、一緒にいろんなことをして、定年退職して、一緒に老後を過ごしてからのことだと。
まさか結婚を約束した1週間後に、全てのライフステージをぶっ飛ばして看取りをするなんて思っていなかった。
そして、愛する人の命の期限を決めることを20代で経験するなんて思わなかった。
つらかった。苦しかった。
実は主治医の先生から病状説明を受けるまでは、人工呼吸器をつけることもほんの少しだけ考えていた。まだ若いし、何とか回復するのではないかと。
でも彼の脳の画像を見た瞬間、そんな考えは粉々に打ち砕かれてしまった。
私が職場で今まで見てきたどの患者よりも脳の損傷が激しかった。
人工呼吸器をつけたって何の解決にもならない。ただ最期までの時間が延びるだけだ。
脳死状態や植物状態になる可能性が極めて高い。例え奇跡的に意識が回復したとしても、凄まじい障害が残ることがわかってしまった。
もともと車椅子の彼に更に障害を負わすのか。
私がそんなことをしていいのか。
絶対にダメだ。
そんな考えが一瞬で頭を駆け巡った。
人工呼吸器をつけなかったことは今も後悔はしていない。
ただ、これが正解だったかどうかは彼に訊かないとわからない。