いつかあなたに逢いたい

2015年12月に6年付き合っていた最愛の彼を喪いました。
正直どう生きていったら良いのかわからないまま・・・今を過ごしています。

彼に触れる

再び続き。あの時のこと。



しばらく彼のご家族と話した後。
私は思い切って訊いてみた。
「〇〇さんの・・傍に行ってもいいですか?」って。


承諾をいただき、畳に寝かされている彼の傍に座る。
近くで顔を見てみても、やっぱり眠っているように見えた。
気になっていた髪も、綺麗に洗われたのかいつものようにさらさらになっていた。
でもふと顔の横に視線を移した時、彼の耳をみて驚いた。
見たことがない色だった。
赤黒い・・というか、青黒い・・というか。
血が通っていない色。こんな色なんだって初めて気がついた。
彼の顔色が良く見えるのも、きっと化粧のおかげなんだということに気づいて、改めて愕然とした。


偶然なのか、気を遣ってくださったのか、いつのまにか2人きりになっていた。
彼の顔を両手で包んでみた。冷たかった。
あの冷たさは・・何とも言えない。
今まで私が触れたことのある、どの冷たさとも違っていた。
氷のようにとんでもなく冷たいわけじゃない。
いつまでも触れていられる。
でもその冷たさには何の変化もない。
ずっと一定のままだ。
彼の顔の輪郭とか、皮膚の感触とか、以前の彼のままなのに、冷たいせいかとても違和感を感じた。
そのまま彼にキスをした。
目を覚ましてよ・・いつもだったら私が近づくだけで起きるくせに、なんて思いながら。
唇は、柔らかいままだったけど、それでもやっぱり冷たかった。
顔や唇の冷たさも、耳の色も、もう彼は・・あの幸せだった日々は戻らないんだってことを表わしているようだった。
無意識のうちに、私はぽろぽろ泣いていた。
悲しいって強く思ったわけじゃない。自分の感情がついてくるより先に、身体が先に反応して泣いているみたいだった。


次に彼の身体に触れる。
大好きな彼の逞しい腕、肩。車椅子を漕いでいるのでものすごく筋肉質。
私がよく「わーここだけ筋肉すごい!逞しいww」なんて失礼なことを言った時、「ここだけって何だ、ここだけって!!」なんて拗ねながら、それでも嬉しそうに腕に力を入れてみせてくれていたっけ。
私はその力を入れた腕に触って、更にはしゃいでいたな。
今、寝かされている彼の腕や肩は硬かった。
でもあの力を入れている硬さじゃない。カチコチにかたまってしまったような硬さ。
もう二度ともどらない硬さ。
私はまた泣いた。


そして・・彼の手を握った。
いつもは彼の左手と私の右手を繋ぐのだけれど、彼が寝かされている向きの関係で、右手しか握れなかった。
指の長い綺麗な手。すこしかさかさの手。
ずっと握っていたのに、当たり前だけどなんの反応も返ってこない。
お願い、何か反応して・・なんて思っていたのだけれど。
彼は車椅子になった時、後遺症で当初右手の握力はほぼ0に近かった。
でも日常生活の中で右手を積極的に使っていくうちに、だんだんと力が入るようになっていったって、私に嬉しそうに言ってくれたっけ。
そんなことをぼんやり思い出していた。


しばらくの間、私はずっと彼のいろいろな場所に触れていた。
納棺されたらもう彼に触れられなくなる。
きっと彼に触れるのはこれが最後。
覚えておかなきゃ、絶対に忘れないようにしなきゃ。
脳だけじゃなく、手で、感覚で彼を覚えていなくちゃ。
もう、その一心だった。
おかげで今も、あの感触は思い出せる。
もしかしたら、記憶が改竄されているかもしれないけど。
とりあえず、思い出せる。

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